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2023/10/06

SEKIRO 二次創作【ある平凡な、ありふれた茶屋でのお話】

茶屋エンドに辿り着きたくて、1億年ぶりに書いた短編小説。

【ある平凡な、ありふれた茶屋でのお話】







文庫本ページメーカーをお借りしました。
以下、テキストにて同内容を記しておきます。




これは昔、竜胤について調査するため葦名にやってきた内府方の、とある忍びのお話にございやす。
忍びは情報収集も兼ねて、ひとまず葦名の茶屋で休憩する事に。
縁台に腰掛けようとしたところ、突然、背後から声が掛かるところから、始まり始まり。


「……いらっしゃいませ」

いつの間にか、男はそこにいた。気配も足音も全く感じられず、しかし、異様な気を放っている。驚きのあまり声が出かかったものの気圧され、不用意に声を出してはいけないと本能が拒否する。
こちらが固まっていると、男は、およそ割烹着の似合わぬ出で立ちでこう続けた。

「御注文は、如何致しましょうか……」

違う。こいつは茶屋の店員などではない。
忍びだ、それも熟達の。
こちらの正体を見抜いているのか。自分は消されるのか?
そう逡巡した一時、女の声がかかる。

「狼殿、まずはお客様をお席に」

淑やかで品のある佇まいの若い女が、そう言って男をたしなめた。そしてこちらに微笑むと、お品書きと盆に載せたお茶を縁台へ置く。

「遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました。どうぞごゆっくり。狼殿、おはぎをあちらのお客様へ運んでくれますか」

男の背中を見送り、残る緊張から掠れた声で礼を言うと、女は他の席へ注文を受けに行った。
あの男に平常心をもって声をかけるなど、女もまた只者ではないようだ……いや、考えすぎだろうか。
冷や汗を拭い、ともかくお茶をいただくことにする。
うまい。疲れと緊張がほぐれるようだ。

一息ついて、お品書きを眺めてみる。そして気取られないよう、それとなく周囲の観察を行う。
茶屋は盛況で、様々な人間が団欒している。

少し年老いた、猫背に、隻腕。
小柄の身体に、黒い笠。
背が高く細身、蓑に天狗の面。
大きい身体に、三つ編み、鳥の羽根を用いた羽織物。
葦名の家紋が大きく縫われた黒い外套、背には弓。

いや待て、この茶屋はおかしい。事前に確認した要人の、特徴に当てはまる人間が多すぎるではないか。
想定外の事に思わず顔をしかめてしまい、慌ててお品書きで隠す。
長居してはいけない。しかし注文もせずに去るのも不自然か……。どうにか平静を装い、お品書きに集中する。
どうやらここの名物は、おはぎらしい。先程の女に声をかけ、ひとつ注文してみた。

「おはぎだ」

忍びだ。そういえば、こいつも一体何者なのか。
だがそれは後でいい。今は、おはぎを食べるのだ。
何故か目の前で、こちらの様子を伺う忍び。嫌な緊張感を伴いながら一口頬張る。
……うまい。どこか優しさを感じる。
ふと、頬が綻んでいることに気づき、忍びから顔を背ける。

「……うまいか」

こちらが黙ってこくり頷くと、異様な気とは裏腹に、忍びはどこか満足気に去って行った。
お茶とおはぎの代金に銭を置き、荷物を持って立ち上がると、今度は少年が声をかけてきた。

「ありがとう。またのお越しをお待ちしております」

この場において一筋の清流がごとき少年に、心が洗われるのを感じながら、茶屋を後にした。
最後に茶屋の屋号をちらり見やると、荒々しい筆致で《竜胤》と。
…………竜胤?

それから幾日が過ぎた頃、内府方に報告書が届けられた。
おはぎを添えて。

『竜胤とは、茶屋なり。おはぎが美味』

葦名の茶屋《竜胤》。そのおはぎの美味しさを、たちどころに日の本へ名を轟かせる、そのきっかけであった。


さても葦名は、このように平凡な毎日を送り、至って平和に年月を重ねていきましたとさ。
これにて、葦名は昔話を締めとさせていただきやす。
それではまた、ご贔屓に。

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