ラレンティウス独白形式、原作と同じ道を往く短編。
【それは毒か、栄光か】の、その後。
【歩み、火を分かつ】
じわじわと嫌な感覚だけが、身体を伝い這い寄ってくる。膝をついてしまわぬよう堪えても、毒沼の底から無数の手に掴まれているかのようで足取りはなかなか進まない。
一歩一歩を大きく、纏わりつく重さを振り払って、ようやく小さな陸地へ辿り着く。だが、ついには地面に突っ伏してしまった。
幸いにも毒沼から抜け出せたが、身体は動かない。用意しておいた苔も使い切ってしまった。
このまま此処で、終わるのだろうか。
俺の知らない呪術を、混沌の炎に触れることもなく。
彼から未知の呪術について教えてもらったあの時、どうしようもなく熱い衝動が湧き上がって。燃え上がるのを止められず、そしてその身は今や焦がされ、もうすぐ尽きてしまいそうだ。
祭祀場では今頃、彼が戻ってくる頃だろうか。
いつもの亡者の姿で、たくさんの土産話を携えて、語り合う。あのひとときが、ふとよぎる。
陽射しのあたたかさが懐かしい。
今度は自分が土産話をしようだなんて、おこがましかっただろうか。いや、彼なら笑って聞いてくれるだろう。
段々と瞼が重くなり、光が遠のいてゆく。このまま暗い安息に身を委ねてしまえばいいと、内なる声が囁き始める。
それもまたいいだろう。
──だが、眠るには此処は寒すぎる。
動け、まだ行ける。此処で終わってなるものか。
心臓から肩、腕へ……手のひらから指先へ。太ももから、膝から足先へ。全身へ巡らせるように、燃やすように。
火は、まだ消えていない。
ずっと座ってたんだ、身体を動かすにはちょうどいいじゃないか。
膝は少し笑うものの、ようやく立ち上がる。祭祀場へ戻るのは厳しいだろう。
ならば、前へ進めばいい。
たとえこの身が欠けようとも、胸の内にある、この熱を絶やさぬために。歩き出すための火を分けてくれた彼に、また会えることを願って。
嗚呼、友よ。俺はこの先で待っているさ。
その時はまた、いつものように語ってくれないか。
切ないけれどラレンティウスの覚悟と呪術への想いが伝わってくる表現に胸がきゅっとなりました…
返信削除特に「眠るには此処は寒すぎる。」のところが、温かい太陽の元座って待っていたラレンティウスには病み村の最下層は寒かったろうなと思わせられる表現でなるほどと唸りました…
(目指しているイザリスにも程遠く、暗い場所ですもんね…)
毒沼の途中で力尽きてもおかしくないような病み村を、強い意志でもって進んでいたのでは……と想像を膨らませました💭
削除毒沼に加え遮蔽物が少ない中、岩石を投げてくる亡者が複数いる状況に自分自身震えたので、ラレンティウスは本当にすごい……!